(by paco)前回「249 直観と論理」の続きです。直感ではなく、直観を重視するという話をしたのですが、僕自身は直観の力を広告の仕事を通じて鍛えられたと思います。
広告クリエイティブは、基本的に直観の世界なのです。これがいいよね、と言うものが見つかったときに、それははっとひらめきのように頭に浮かぶことが多い、というかそれがふつうです。
といっても、頭に浮かぶ直観は、抽象的な概念の場合と、具体的な色や形の場合と、二種類あります。この広告は重厚な雰囲気がいいなと思うこともあれば、軽やかな方がいいと思うこともある。これらは先に概念が浮かび、そのあとに「重厚な感じを出すには、黒や濃い茶色を使って」という具体的な方法論があとから出てくるわけです。それとは別に明るい色のビジュアルが先に浮かぶこともあります。「なんか、パステル系がいいんじゃないかな」という感じです。
いずれの場合でも、ほとんど浮かんだ瞬間に、概念と具体的なビジュアルパーツとの間を思考が行ったり来たりする習慣が、仕事を通じてつきました。「重厚さ」と「黒」や「大理石の質感」が直結していて、瞬時に変換ができるようになってきたわけです。もちろん、これはとてもステレオタイプなつながりなので、重厚さを表現したいときに、いつも黒を使えばいいというものではありません。でもひとつの直観を具体的にするときに、概念と具体的なものとの間を自由に行ったりきたりできることはとても有効です。
それと同時に、そもそもなぜ「重厚さ」や「パステルカラー」が直観的に浮かんだのかということについて、言葉で論理的をもって説明する習慣もついていきました。というか、僕自身はその部分が強かったというだけかもしれませんが、直観で出てきたものを言葉で説明することができる、それができれば人には理解されるということが、わかってきたということかもしれません。
「まだ歴史が浅い会社だけれど、基盤はしっかりしているし、社風も落ち着いているから、どっしりした印象を与えた方がマッチする」とか、「大企業で安定を求める人ばかり集まるから、逆に軽快で変化し続ける本当の姿を伝えよう」とか。競合がどのような表現をしてくるから、この会社は違う表現をしたいという場合もあるし、同じような表現をすることで、トップ企業の安心感を伝えたいという場合もあります。
つまり、直観で浮かんだものがなぜいいのか、なぜそれである必要があるのかという点について、言葉で論理的に説明しようという努力をすることが重要だということです。もちろん、その説明はこじつけに近いこともあるし、まったく逆の説明もついてしまうこともあるわけですが、それ自体はたいした問題ではありません。あくまで説明しようという意思を持ち、やってみるということですね。
ライフデザインに取り組んでいると「実は自分は、ビジネスよりスポーツに関心があったときがつきました」ということもあります。「スポーツだ!」という直観が降ってきたわけです。その時に、なぜスポーツなのかを自分の言葉で説明しようと努力すること、そしてそれを身近な人などに話し、理解してもらえるかを確かめながら、説明をリファインすることを、是非やってみてほしいと思います。
言葉にすると大事なものが逃げてしまうと感じる人もいるかもしれませんが、僕は「言葉になったものの方が、実現する可能性が高まる」と思っています。言葉にきちんとなるということは、自分にとってはその説明が「飛躍のない、まるであたりまえのこと」と感じられるようになるということです。夢がかなうというのは、その時点で夢が空想から現実になる(あたりまえのことになる)ことですから、言葉で論理的に説明することで「飛躍や矛盾がない状態になる」ことは、夢の実現に一歩近づいたことを意味しているのです。
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